抗腫瘍薬ドキソルビシンの副作用としての心筋症を再現した非ヒト霊長類モデルにおける心筋障害因子S100A8/A9複合体の同定とその阻害による心保護
論文タイトル
Suppression of the neutrophil-derived S100A8/A9 complex ameliorates doxorubicin-induced cardiomyopathy in non-human primates
掲載誌
Biochemical Pharmacology
執筆者
Fumiya Sawasaki, Akira Sato, Akio Shimizu, Shoma Matsumoto, Ikuo Kawamoto, Mitsuru Murase, Iori Itagaki, Hideaki Tsuchiya, Hirohito Ishigaki, Naoko Ueda, Issa Toyoda, Yasushi Itoh, Daisuke Okuzaki, Masatsugu Ema, Hisakazu Ogita
(太字は本学の関係者)
論文概要
抗腫瘍薬ドキソルビシンは多くのがん患者さんに用いられている有効な薬です。しかし、投与量が増えると心筋症を引き起こし、命に関わる心不全に進行する可能性もあります。現在、この副作用を根本的に防いだり治療したりする方法はありません。本研究ではまず、ヒトに近い非ヒト霊長類のカニクイザルに、ヒトと同様の方法でドキソルビシンを投与し、心筋症から心不全へと進行するモデルを世界で初めて確立しました(図1左)。この心筋症モデルのサルと、ドキソルビシンを投与していないサルの心臓からRNAを抽出し、網羅的な遺伝子発現解析とバイオインフォマティクス解析を行ったところ、心筋症で高発現する因子としてS100A8/A9複合体を同定しました。この因子は、ドキソルビシン投与後に心筋に集まった好中球(白血球の一種)で強く発現しており(図2)、受容体TLR4との結合を介して炎症を引き起こすことから、心臓での過剰な炎症反応がドキソルビシンによる心筋症発症の原因であると考えられました。そこで、S100A8/A9複合体のTLR4への結合を阻害する低分子化合物パキニモドをドキソルビシンと併用したところ、心臓での炎症反応は軽減され(図3)、心不全死を防ぐことができました(図1右)。本研究成果により、パキニモドには、ドキソルビシンによる心筋症発症を抑制する心保護効果があることがわかり、新たな治療法開発への可能性が示されました。


文責
生化学?分子生物学講座(分子病態生化学部門) 佐藤 朗、扇田 久和