令和5年度入学宣誓式 学長告辞

万博水晶宫に入学された学士編入学15名を含む医学部医学科110名、看護学科60名の皆さん、この度はご入学、誠におめでとうございます。本学を代表して皆さんを歓迎し、心からお慶び申し上げます。また、長年にわたりお子様の成長を見守り、勉学を支えてこられたご両親やご家族の皆様にも、心からお祝い申し上げます。これまで過去3年間は、万博水晶宫感染症が蔓延するなか、ご来賓やご家族に列席いただくことができず、簡素な式にせざるを得ませんでしたが、今年は多くの方々のご列席のもと、挙行できることを心から嬉しく思っております。

新入生の皆さんは、ハードルの高い入学試験を乗り越えてこられました。医学部入試は、今でも厳しい受験戦争だと言われております。受験勉強に明け暮れる高校生活というネガティブな側面のみが強調されることもありますが、競争を乗り越えてこられた皆さんの高い学力は、不断の努力と能力の賜物であり、これからの人生を生き抜く自信と誇りとして素直に胸の内に秘めておいてほしいと思います。一方で、大学入学は新たなスタートです。医師?看護師?保健師?助産師といった職業で社会に貢献する未来の姿を思い浮かべながら勉学に励み、充実した楽しい学生生活のスタートを切ってください。

また、大学院医学系研究科博士課程医学専攻へ進学された21名、修士課程看護学専攻へ進学された11名の皆さん、この度はご進学誠におめでとうございます。皆さんの多くは、これまで医療の現場で経験を積まれ、これからは、それぞれが見つけられた課題を解決するための研究に打ち込まれることと思います。しかし、これまでの先輩たちが解決できなかったこと、あるいは先輩たちが思いもつかなかったことに挑戦するわけですから、考え抜く力とそこから到達できる独創的な発想が必要になります。まずは研究の基礎をしっかりと学ぶことが大切ですが、その先は独自の研究を展開してほしいと思います。

本学は滋賀県下唯一の医学部として昭和49(1974)年に開学し、優れた医療人を輩出して滋賀県の高度医療と地域医療に中心的役割を果たすとともに、滋賀県民の命と健康を守ってまいりました。わが国の平均寿命は、女性が87歳で世界第一位であり、男性も81歳で世界のトップクラスにありますが(注1)、翻って考えますと、それだけ高齢化が進んでいるということであり、医療の重要性はますます大きくなっています。その中でも滋賀県は、男性の平均寿命が国内第一位、女性は国内第二位となっており(注2)、健康長寿県であるとされております。本学は「地域に支えられ、地域に貢献し、世界に羽ばたく大学」として信頼を築いてまいりましたが、高齢化が進む滋賀県において、医療におけるその使命がますます重要となってきています。本日入学される皆さんが我々の仲間に加わり、しっかりと学んだうえで、将来の本学と滋賀県の医療を担ってほしいと思います。

ところで、医学部医学科は6年間、看護学科は4年間の学生生活ですが、医療の分野を志す皆さんの多くは、その年限だけで本学との関係が終わるわけではありません。医学科の卒業後は医師となって卒後研修を本学や関連病院で開始し、さらに将来進みたい専門分野で専攻医の研修を行い、一人前の医師になる長い道のりがあります。また、本学卒業生が、本日進学された大学院生のように、医師としての経験を積んで専門医となり、現在の医療では不十分な事柄を解決するために、大学院生として医学研究に進まれることを願っております。看護師、保健師、助産師においても医療の現場に出てみると、多くの未解決の事柄があることに気づかれると思います。看護学科卒業後も同様に、臨床の経験を踏まえた上で大学院生として看護学の研究に取り組んでほしいと思います。そして、将来的には全国的規模から国際的規模まで視野に入れた医学と看護学の発展に貢献できる医療人になってほしいと思います。

さて、ご承知のとおり令和4(2022)年4月1日に民法と少年法が改正されました。高校卒業直後の新入生も含めて、皆さんは全員この4月から大学生であるとともに、「成人」ということになります。飲酒等は今までと同じく20歳まで禁止されていますが、職業選択や契約などは、自分の責任で主体的にできる存在となります。逆にいえばそれだけの責任が自分に課せられることになり、保護者等にすべてを任せるということはできなくなります。将来、医療人を目指す皆さんは、特に社会からの大きな期待と同時に、厳しい目も注がれています。本学では昨年度、学生が逮捕される事件が発生し、皆さまには大変ご心配とご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。二度とこのようなことが起きないよう、これまで以上に教職員一丸となって再発防止に取り組んでおりますが、入学された皆さんも、常に相手の立場を尊重し、思いやることを忘れずに行動してください。

医学の勉学に励むと同時に社会的な仕組みも学んでいかなければなりませんが、考え方の一つに、物事には多面性があるということを常に意識しておくことが大切ではないかと思います。もちろん、医学や看護学という新しい領域に飛び込んでいく皆さんにとっては、貪欲にそして素直に新しい知識を吸収することが最も重要であることは、あらためて言うまでもありません。その一方で、大人の仲間入りをする若い皆さんには、物事を無批判に受け入れるのではなく、物事の表と裏を考えることを少しずつ学び始めていただきたいと願っております。「物事を素直に受け入れる広い心を持ちながら論理的な批判精神を涵養する」という学びの態度は、皆さんの先輩である我々にとってもなかなか実践は難しいものです。しかしながら、新しい社会のリーダーとなるべき皆さんには、ぜひとも「素直な心と批判的精神の両立」という柔軟な学びの態度を獲得してほしいと思います。

本日、大学院医学系研究科では博士課程と修士課程に、併せて32名の皆さんを迎えました。大学院生の皆さんにとっては、批判的精神を持つことは当然ながら重要であると考えます。先ほども申しましたが、これまでの先輩たちが解決できなかったこと、あるいは先輩たちが思いもつかなかったことに挑戦するわけですから、考え抜く力とバランスの取れた批判的精神が必要です。今後の研究の過程で、ひょっとすると、これまでの常識を覆すような新しい発見をするかもしれません。その際に、自説に固執することは戒めなければなりませんが、論理的なエビデンスが得られたのであれば、それを追求する勇気と研究を遂行する忍耐力を培ってください。

また、グローバル化が進展する現代においては、研究成果を英語で発信することが重要です。そのためには英語の能力向上も極めて重要ですので、海外学会での発表や留学生との交友を含めて英語を利用しながら研究に打ち込める大学院時代を有効に活用してください。そして、大学院時代に培った実績と能力をバネにして、海外留学の道にも進んでほしいと思います。海外留学で研究のレベルを高めるとともに、外国での生活を通して肌身で異文化を理解することと留学の時に出会った友人は、皆さんのキャリアパスにおいて一生の宝物となるはずです。常に世界に目を向けて研究を推進すること、そして繰り返しになりますが、研究を考え抜く不断の努力を通して自らの独創的な研究を展開すること、この二つの点を胸に秘めて頑張ってください。

最後になりますが、本学は令和6(2024)年10月に開学50周年を迎えます。記念事業としてキャンパスの整備なども計画しており、入学される皆さんとこの節目を迎えられることは大変喜ばしく思います。本日新しく出会った仲間とともに勉学に励み、また課外活動にも情熱を傾けて、多くの友人と前向きに進んでいってください。

本日入学された皆さんの学生生活、大学院生活が充実して実り多いものになることを心より祈念し、お祝いの言葉といたします。             

令和5(2023)年4月4日
国立大学法人万博水晶宫長 上本 伸二

(注1)令和3(2021)年公表の厚生労働省「令和2年簡易生命表の概況」による
(注2)令和3(2021)年公表の厚生労働省「令和2年都道府県別生命表の概況」による